BrainyRabbit's Blog

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ウクライナ映画「Stop-Zemlia」(ストップ・ゼムリア)(2021)

ウクライナ支援チャリティーイベントで、ウクライナ映画「Stop-Zemlia」を観てきました。

2020年のベルリン国際映画祭ジェネレーション部門最優秀作品賞を受賞した作品です。

英語圏じゃない国の映画は、その国に住んでいない限り賞を受賞しているような作品でも外国で配給/配信されることが少ないので、見る機会があまりありません。ウクライナ映画を見るのは今回が初めて。

企画したウクライナ人の友人曰く、「”戦争前のウクライナの日常”を感じてもらいたい」という理由でこの映画を選んだそうです。

 

目次

 

タイトル:”Stop-Zemlia"

英語版タイトルの"Stop-Zemlia"は原語タイトル”Стоп-Земля”を直訳したもので、英語版タイトルに直接の意味はない様子。Stop-Zemliaは日本でいう"目隠し鬼"のようなウクライナの子供の遊びで、鬼になった子が目をつぶって手探りで他の子を探す、というゲーム。映画の中で、主人公とそのクラスメイトが遊ぶシーンがあります。

 

映画について

あらすじというあらすじはない。映画に詳しくないので、なんというジャンルの映画というのかわからないのですが、純文学の映画版というか、起承転結のストーリーがあるわけではなく、日常の一コマを切り取って”魅せる”撮り方をした映画です。

Wikipediaによると、当初のプロットとは異なり、高校生演者に7週間の演劇ワークショップを行い、即興劇のような形で完成させたとのこと。登場人物の名前(ファーストネーム)は、演者の本名そのままか愛称(Maria→Mashaなど)が使用されています。

 

ストーリー

思春期のウクライナの子供の悩みや日常を描く。主人公はキエフに住む高校生のマーシャ(Masha)。クラスにあまり馴染めていないが、同じく若干浮いている仲の良い女友達ヤナ(Yana)と男友達セニア(Senia)とよく時間一緒に過ごしている。主人公ら3人の仲良しグループ、クラスメイトの陽キャ達、いじられキャラの男の子、主人公が片思いするイケメン:サーシャ(Sasha)とその母親がかかわる日常の様々なシーンが切り替わり、人間関係や思春期の悩みを描いている。

 

主な登場人物

マーシャ(Masha)

主人公。ショートカットのボーイッシュな格好をした16歳の女の子。クラスメイトで親友二人(ヤナ、セニア)といつもつるんでいる。大学進学や片思いするクラスメイトとの関係、自分のアイデンティティ等に悩んでいる。経済的には中の上くらいの家庭で小さい弟もいるが、両親が自宅を不在にしがちで親友2人が頻繁に自宅に泊まっており、悪いことをしては弟に親に告げ口されている。インスタグラムで知り合ったメッセージ相手が片思いのクラスメイトであることを密かに期待している。母親との会話から、過去にメンタルを病んで自傷しセラピーを必要としていたことが暗示されている。

 

セニア(Senia)

主人公の親友の背の高い男の子。主人公をよく助け、背中を押してくれる。作中、銃の訓練の授業で顔面蒼白になり退出したり、「XX(ロシア語)ってウクライナ語でなんて言うんだっけ?」というセリフがあるなど、明言はされていないがウクライナ東部ドネツィク周辺の出身で2014年のロシアの侵攻後にキエフに逃れた生き残りであることが示唆されている。”父親が働かずに家に常にいるので自宅で落ち着けない”など、父親もPTSDなどの障害を抱えていることも示唆する発言もある。父親からは同性愛者でないかと疑われている。自室でウーパールーパーを飼っている。

 

サーシャ(Sasha)

主人公が片思いするイケメンのクラスメイト。クラスの陽キャグループ。母親がシングルマザーの典型的な毒親で、なんでも管理しようとする・思い通りにいかないと延々と責めるため、苦慮している。古いアパートに母親と2人で住んでいる。

 

ねずみ(”Mouse”)

”ねずみ”と呼ばれる主人公のクラスメイト。クラスのいじられキャラ的な存在で、作中でもクレジットにも本名は明記されず”Mouse”と表記。鞄を窓から投げられたり、博物館で閉じ込められたり、最早いじめでは?と思うシーンもあるが、主人公グループが呼ばれていないクラスメイトの陽キャグループのパーティに参加していたり、体調が悪い時には心配されていたり、ダンスイベントでは陽キャグループと一緒に踊っていたりしているので、陽キャグループ側は”いじられキャラの友達、いじめているつもりはない”と認識していそうな感じで、本人は嫌そうな反応もしているが、彼らと行動を共にしている。

 

クラスの陽キャ達

主人公グループを除くクラスメイト達で個人にあまりフィーチャーはされていないが、飲酒・喫煙(違法なものを含む)を日常的にしており、乱れたパーティーを開いたり”ねずみ”をいじったりしている。

 

感想

この映画を選んだ理由が、「ストーリーというストーリーはないが、”戦争前のウクライナの日常”を感じてもらいたい」ということで、その理由のとおり、戦争前のキエフの生活が映画のシーンで垣間見えて興味深かったです。クラスの陽キャグループたちの乱痴気パーティーは、日本の高校を卒業した私にはショッキングなシーンの連続でしたが、ウクライナ国内でも大人世代は私と同じような反応らしいです(一方で、「14-18歳くらいのウクライナの子供が親たちに自分たちの生活を知りたいなら、この映画を観ろ!」というとのこと。笑)。

日常的なシーンの中でも、パーティーを開いている陽キャの家(キエフの典型的な”成金”の家らしい)、中の上くらいの主人公の家、底辺家庭の主人公の片思い相手の家など、同じキエフ内でも経済格差が見て取れるのも興味深いです。登場するすべての家庭に何かしら問題があり、主人公の家庭は経済的に安定していて母親父親は登場しているシーンでは真っ当なことを言っているが、頻繁に何日も自宅を空け小学生の弟と高校生の姉の2人だけで生活させておりどこかおかしい。飲酒や喫煙などの行動に走っているのが、”若気の至り”や反抗期的な衝動なのか、問題のある家庭からの逃避行動なのか、あるいはそのどちらもなのか。

どこの国でもある思春期の悩みの話に加え、高校の授業で銃の組み立てや射撃の練習のシーンや戦争のトラウマで銃の音で体調を崩す子供など、2014年のロシア侵攻後が社会に落とした闇の部分も垣間見え、それが主題ではなくシーンの一つとして織り込まれてうることが、日常の一部になっていることを感じさせられました。

映画と直接関係ない部分では、ウクライナ語とロシア語がかなり似ていて驚きました。英語字幕版音声はウクライナ語で見たのですが、ロシア語は日常会話レベルの私でも3割くらい聞き取れたほど共通する/音が似ている単語が多く、こういうことも背景になっていると言っていたウクライナ人の友人の言葉が理解できました。

 

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